てんとう | 自主見学

てんとう

山手線。JR東日本が東京都区内で環状運転している、東京における交通網の要である路線。朝と夕のラッシュ時には肋骨が折れそうになるほど混みやがる、皆が認めるその便利さは特筆に価する。



昨日の午後3時頃、山手線に乗っていたのね。車内はそれほど混んでなかったけど、席にはつけなかった。池袋から新宿に向かっていたその途中、隣の男性が 「あれ?!」 って感じで僕らの前に立っているスーツ姿の女性の背中を見たんです。視線だけなら僕も気づかなかっただろうけど、その男性は身を乗り出してその女性の背中を凝視するわけです。


変態かも。この男、背中フェチかも。


そう思ったけど、気になったから僕も、ピシッと姿勢良く立っているその女性の背中に注意を払いました。


てんとう虫がいた。



その男性と僕は目を合わせ、無言でそっと心を通い合わせましたよ。微笑みながら。


「この女性、てんとう虫と山手線乗ってる!」

と。


それはそれは不思議な光景でした。人間の背中には死角があるじゃないですか。肩関節の柔らかい人は例外だけども、手が届きにくい場所ってあるじゃないですか。そこらへんにいたのね、そのてんとう虫。技ありの移動手段だなと思った。


目的地はどこなんだろう。恋仲のてんとう虫と待ち合わせか、おい。


ノーベル賞を贈りたいほどの発見をしたその男性は、次の駅で降りていきました。残ったのは、僕と女性とてんとう虫。さぁどうしようか。この車内でてんとう虫の存在に気づいているのは僕だけですよ。その女性に知らせようか、どうしようか。真剣に悩みましたよ。だってさ、


「すいません、、、背中にてんとう虫が、、」


って言えないじゃーん。勇気を出してそう告げても絶対 「は?!何言ってんの?」 みたいなコワイ顔されるじゃーん。


じゃ、放っておけばいいじゃーん。とも思うけど、その女性がもし空いた席に座ったら、てんとう虫潰れちゃうじゃーん。可哀相じゃーん。


そんな感じで、じゃんじゃんじゃんじゃん考えていたら、その女性は次の駅で降りてった。


てんとう虫のやつ、無事に目的地に着けたかな。僕は着けたよ。