卒業式の前後ストーリー④: wrestling | 自主見学

卒業式の前後ストーリー④: wrestling

卒業式の前後ストーリー③ からの続き。


二日酔いではあったけれど、無事卒業式を終えたその日の夜の話です。


夜は友達の家でレスリングをしました。


「は?」と思った人のために、もう一度書きます。


夜は友達の家でレスリング、です。


早い話が「取っ組み合い」。男女入り混じってのレスリング。入り混じってはいるけれど、健全なレスリング。こんなパーティーは初めてです。異国の地で人生初の本気レスリング。


あれは夜8時頃でしたね。

友達の家に着きましたら、いきなり白人女性2人が「絶対倒す」とか興奮しながら僕に挑んできたんですね。「何事だ!?」としばらく状況が読めなかったんですけど、僕が到着するしばらく前からレスリング大会が催されていたみたいです。そういえば皆ちょっと汗ばんでる。


女性相手といえども「ここで負けては日本人の評価が下がる」と思いましたもんで、正味2分程で2人まとめて床に押し倒して、身動きが取れないようにしてやりました。そこでレフリーストップ。勝った!


おい、何をそんなに喜んでんだ

当たり前じゃねーか

お前は男じゃねーか

と、お思いの皆様へ質問。


発育の良い、いかにも「牛肉で育ちました!」みたいなアメリカの女性二人に突進されたことってありますか、と。


ホントに凄まじい力です。一瞬、小さいトラックかと思った。正直言うと、「ま、酒飲みながらの冗談レスリングだろ」 と高をくくってました。ところがですね、一旦始まると「やばい!」と思いましたね。「やばい!おら、倒されちまうだよ」 と。


2対1は不利だ、なんて訴えてる暇はない。二人で僕をバラバラにしようとしている!という程の力です。なんとか、運動不足で弱っている四肢を駆使して辛勝しましたけど、それからがまた大変でした。


僕がこの初戦で倒した二人組の女性、その夜で初めて負けたと悔しがるんです。図らずして僕の評価は急上昇ですよ。こいつは只者じゃない、という過大評価。なんてことだ。卒業式の後だし、僕は静かめに酒を飲み思い出なんかをシンミリ語り合いたかったのに。急な挑戦者、急なファイト、急な展開。


ルールは無いに等しい。パンチや金的、目潰しはもちろん反則だけど。相手を倒して馬乗りになれば勝ちってところでしょうか。いや、でも体勢を入れ替えられて試合再開ってこともあったし、、、とにかくほぼノー・ルールです。どちらかが降参するか、諦めるか。


その後も挑まれ続ける卒業生(僕)は幾度も試合をする羽目になり、快調に評価を上げたのです。その間あいだに酒(キャプテン・モーガン)を飲み続け、とうとう気持ち悪くなって、夜の11時頃に引退です。短い選手生命でした。でも楽しかった。こんな夜もいいものです。ってこれからの人生では有り得ないと思いますけど。貴重な体験でした。白人女性4人対僕1人、なんていう理不尽にも程があるだろという試合もありました。負けました。でも良いファイトだった。誇りです。何だそりゃ。


一見すると乱交ですが、Hなことは一切期待していけない本気の取っ組み合いでした。そんな夜が更け、次の日の朝、目が覚めると両足に激痛が走っており (走っておりっていうか猛ダッシュしており) まともに歩けませんでした。そして今現在 (東北の実家に帰省中) でも少し足が痛い。レスリングで骨をちょっと痛めたんだと思います。分かりますか?皆本気で戦ったわけです。足の指を折った女性も1人。あはは。笑えないよ、君。


3年に亘る留学生活はこうして幕を閉じました。卒業式とレスリングは土曜日、痛む足を引きずって荷造りをしたのが日曜日。日曜日は寝ずに荷造りと部屋の掃除をして、月曜日の早朝に町を出発。アトランタで乗り換えてフロリダへ向かいました。機内では睡眠以外何も考えられなかったです。たとえそれがどこであったとしても (腹ペコのピラニアが口を開けて待ち構えているアマゾン川のど真ん中であっても、閻魔大王が太い鞭を片手に微笑を湛える地獄の底であっても) 連日の睡眠不足でボロボロ&フラフラだった僕にとっては邪魔が入らない心地良いベッドになっていたでしょう。


飛行機嫌いの僕ですが、このときばかりは空の上で小刻みに揺れるその鉄の塊に付属する狭い席が、タイの山奥で昼寝をしたゆったりと風に揺れるハンモックにも似た素晴らしい空間に思えたのです。


雲の上ですっかり削ぎ落とすことに成功した疲労。フロリダに着く頃には生まれたばかりの赤ん坊のように、生気みなぎる一つの個体として、旅へのエネルギーがしっかりと調っていました。


「独り卒業旅行・フロリダ」に続く。